ファンダメンタルズ分析の指標となるのは
FX(外国為替証拠金取引)では、キャピタルゲイン(為替差益)を得るために、為替相場の動向に敏感に反応する必要があります。今後、上昇トレンドが続くのか、下降トレンドが続くのか、もみ合いの状態が続くのか見極めなければなりません。
為替変動の予測の手法は、大きく分けると二種類になります。
ひとつは、過去の為替レートのデータからヒントを得る「テクニカル分析」です。チャートやインディケーターを活用していきます。短期売買で目先の動きを予測するのに主に用いられます。
もうひとつは、通貨を発行している国の経済状況や政治情勢などからヒントを得る「ファンダメンタルズ分析」です。景気動向や金利は為替相場に大きな影響を与えます。大きなトレンドを読むのにファンダメンタルズ分析は欠かせません。
特にアメリカの重要「経済指標」はトレンドの転換期となる可能性がありますので、注目する必要があるでしょう。世界の基軸通貨とされる米ドルは、為替相場の中心であり、主役です。マイナー通貨とのペアも含め、ドルストレートはほぼ同じような動きをします。
為替相場を動かす要因はいくつもありますが、発表の時間が定まっているのは経済指標ぐらいです。重要な経済指標が発表されることを事前に知っておけば、チャンスをうかがうこともできますし、リスク回避もできます。
その中で世界中の投資家が最も注目するのが、毎月第一金曜日に発表される「雇用統計」になります。
最も重要視されるアメリカの雇用統計
キングオブ経済指標と呼ばれている雇用統計(Employee Situation Report)では、「非農業部門雇用者数」(Non-Farm Payroll)通称「NFP」と「失業率」が注目されます。また、前月比の「平均時給」なども併せて発表されます。
注意しなければならないのは、経済指標が良好な結果であれば必ずしも為替レートが上がるわけではないということです。目安となる事前予想の数値が決まっており、それを上回るか下回るかが重要になります。
NFPは事前予想とのブレが大きくなる傾向があり、ポジティブサプライズやネガティブサプライズが起こりやすい指標です。前月分の修正値も発表されますが、こちらの修正幅も大きいので注意する必要があります。
雇用統計発表直後には、100pips以上も変動することがあります。注文が殺到するのでスプレッドも広がり、米ドル/日本円(USD/JPY)のスプレッドが原則0.3pipsで固定されている取引業者も1.2pipsや2.0pipsまで広がるケースが一般的です。
それだけ雇用統計は重要な意味を持っています。
雇用者数はアメリカの景気を判断するには格好の材料です。雇用が回復してきているということは不景気から抜け出していることを示していますし、雇用が減少してきているということは景気が後退し始めていることを示しています。
NFPは、自営業や農業従事者を含みませんが、対象事業所は40万社あまり、対象となる従業員数はおよそ4,700万人です。これはアメリカ全土の30%以上を網羅していることになります。
発表時には、Kiloという単位が使用されますが、これは千単位になります。150Kということは、15万人増加ということになり、ここが景気回復の目安とされています。近年のアメリカでは200Kを突破することも珍しくありません。2018年11月に発表された10月NFPは、事前予想の193Kを大きく上回る250Kでした。
失業率も景気動向を占う大切な指標です。2011年~2014年の半ばまでは、アメリカの失業率は6.0%~10.0%で推移していましたが、2014年半ばから2017年にかけては4.0%~6.0%で推移、さらに2018年に入ってからは3%台での推移と良好な状態を維持しています。
今後の金利の変動にインフレは大きな影響を与えますので、平均時給の増加率も見逃せません。こちらも2018年後半になっても鈍化はほとんど見られません。前年比で+2.7%~+3.1%、前月比で+0.2%~+0.4%と事前予想通りまたは、それ以上の良好な結果となっています。
このようなアメリカの好景気が、米ドルに大きな影響を与えているのです。
米ドル/日本円(USD/JPY)は、2018年3月に一時1米ドル104円台の安値を付けましたが、その後の米ドルは堅調で、10月や11月には1米ドル114円台まで米ドル高が進んでいます。
ユーロ/米ドル(EUR/USD)でも2018年2月に1ユーロ1.255ドル台の高値を付けて以降は米ドル高で、11月には1.121ドル台まで進んでいます。
ADP雇用統計との相関はあるのか?
NFPには先行指標と呼ばれる経済指標が事前に発表されます。それが雇用統計の二日前に発表される「ADP雇用統計」です。こちらも事前予想との乖離が大きい傾向があるので、サプライズになりやすい指標ですが、NFPとはどこが違うのでしょうか?
雇用統計は、労働省労働統計局が発表しますが、ADP雇用統計は、民間大手の給与計算会社ADP社が発表します。ADP社発表のものには政府機関の雇用が含まれていないのです。対象は4,000万人とされ、その給与データを基に算出されています。
実際に2018年後半のNFPとADP雇用統計を比較してみましょう。
2018年7月発表の6月ADP雇用統計は、事前予想190Kに対して下回る結果の177K。6月NFPは、事前予想200Kに対して上回る結果の213K。
8月発表の7月ADP雇用統計は、事前予想186Kに対して上回る結果の219K。7月NFPは、事前予想193Kに対して下回る結果の157Kとなっています。
真逆の結果です。
特に顕著だったのは、10月発表の9月ADP雇用統計と9月NFPで、9月ADP雇用統計が事前予想187Kを大きく上回る230Kでポジティブサプライズとなり、1米ドル114円55銭まで米ドル高に付けたのに対し、二日後の9月NFPは事前予想の185Kを大きく下回る134Kという結果でネガティブサプライズとなりました(ノースカロライナ州とサウスカロライナ州で発生したハリケーン・フローレンスの影響とされています)。失業率や平均時給は良好だったので、大きく米ドルが下げることにはなりませんでしたが、10月下旬まで下降トレンドが続くことになり、一時は1米ドル111円38銭まで米ドル安となっています。
ADP雇用統計でポジティブな結果であっても、NFPはふたを開けてみると真逆だったというケースも多いので、注意が必要です。ADP雇用統計は先行指標とは呼ばれているものの、残念ながらNFPとの相関性は高いとは言えないでしょう。