海外FXはどこでもハイレバレッジで取り引きできるのか?

国内FXの最大レバレッジは25倍

レバレッジを効かせて少ない資金でも大きな取り引きができるのが、「FX」(外国為替証拠金取引)の特徴です。ただし、世界中で統一された規制があるわけではなく、国ごとに(金融庁ならびにそれに準じる機関)レバレッジの規制は異なります。その国のライセンスを取得し、FXのサービスを行うのであれば、その規制内のレバレッジしかトレーダーに提供できないわけです。

日本もかつては100倍を超えるレバレッジで取り引きできる環境でしたが、2019年10月の時点では、「最大レバレッジは25倍」に制限されています。投資家保護の視点から、これでもまだレバレッジは高いという理由で、最大レバレッジを10倍まで引き下げることも検討されていましたが、現状は新しい規制は定まっていません。しばらくは25倍という制限の中でFXを扱っていくことになるでしょう。

一方で海外FXに目を向けると、500倍や888倍、さらに1000倍といった超ハイレバレッジで取り引きができます。これは日本の金融庁の規制が及ばないからですが、そういった海外のFX業者を利用すること自体は違法ではありません。利益分の納税さえすれば問題ないのです。

しかし、日本以外の国だったら超ハイレバレッジで取り引きができるわけではありません。近年では多くの国がレバレッジ規制の動きを強めているからです。むしろ超ハイレバレッジでFXができる国、ライセンスの方が限られていると言えるかもしれません。中でも日本の金融庁の規制は厳しいのですが、他国も同じようにレバレッジを引き下げています。

ESMAの規制によりEU圏内の最大レバレッジは30倍

EUの金融庁とも呼べる欧州証券市場監督局(European Securities and Markets Authority:ESMA)は、2018年8月より新規制を導入しました。「強制ロスカットの水準は50%」「ゼロカットシステムを採用」「インセンティブの付加は禁止」そして「レバレッジは30倍」まで引き下げられました。

同じEUに属するキプロス証券取引委員会(Cyprus Securities and Exchange Commission:CySEC)も足並みをそろえる必要があり、レバレッジを制限。2019年9月にはこれを恒久的に採用することを発表し、最大レバレッジは30倍に制限されています。英国金融行動監視機構(Financial Conduct Authority:FCA)も、2019年8月にはアセットクラスレバレッジは2倍~30倍に制限し、インセンティブの禁止などESMAと同じような規制になっています。

つまりこれらの国に拠点を持つFX業者は、トレーダーに超ハイレバレッジを提供できなくなったのです。トレーダーが超ハイレバレッジを望んでいないのであれば、大きな問題にはならなかったでしょう。しかし、実際は多くのトレーダーが超ハイレバレッジを求めて、離れていきました。なぜならもっと高いレバレッジで取り引きできる環境があるからです。それが「オフショア市場でライセンスを取得しているFX業者」でした。

大手のFX業者はトレーダーのニーズを事前に把握していましたから、レバレッジが規制されると顧客が失うことを予想していたようです。ESMAやCySECの規制を知って、多くのFX業者がこのオフショア市場に別法人を設立するなど迅速な動きをとっています。イギリス領のバージン諸島、セーシェル、マーシャル諸島、バヌアツ、ベリーズ、ラブアン諸島などです。日本人トレーダーが利用できるFX業者のライセンスが、FCAやCySECではなく、マイナーなラインセンスになっているのはそういった背景があるからです。

積極的なオフショア市場へのシフト

ハイレバレッジを提供するための方法

FX業者にとってオフショア市場に進出し、新しいライセンスを取得し、新しい法人を設立し、そこにこれまでの顧客を誘導することは重要です。それが超ハイレバレッジのサービスを提供する唯一の方法だからです。投資家保護の視点から行われている規制ですが、皮肉にも投資家自身がその規制を嫌がり、オフショア市場での取り引きにシフトしているのです。

FX業者はオフショア市場にダイレクトで繋がるサイトリンクを提供したり、オフショア市場についてのWebサイトを開設して競い合っているのが現状です。ESMAはオフショアブローカーが、EU圏内のトレーダーに直接的なマーケティング活動を行うことを禁じていますが、EU圏内に拠点を持っている場合、オフショア市場の子会社が直接的なマーケティング活動を行うことに対しては明確には禁じていません。

ESMAの規制の恩恵によって、アフリカ大陸がオフショア市場として注目され始めています。中心はやはり南アフリカです。同国の金融監督当局である南アフリカ金融業界行為監督機構(Financial Sector Conduct Authority:FSCA)は、規制がESMAやFCAよりも緩く、FX業者にとっても運営コストを最大限まで抑えながら、超ハイレバレッジを希望するトレーダーを獲得することができます。またアフリカの金融市場におけるリテールFXの需要も高まっており、2013年から急成長し、しばらくはこの高成長が続くと考えられています。

他の国の規制強化の動き

ただしオフショア市場への規制や、オフショア市場自体の規制も始まっています。オーストラリア証券投資委員会(Australian Securities and Investments Commission:ASIC)は、2019年8月にバイナリーオプションを禁止とするとともにCFDに対して取り引き制限の規制を設けることを発表しました。ASICは海外顧客へのサービス停止の圧力を、国内のFX業者にかけています。

シンガポール金融監督局(Monetary Authority of Singapore:MSA)は、2019年10月よりレバレッジを最大50倍から20倍に引き下げる新規制を発表しています。こちらには抜け道があり、150万ドルの資産を所有していたり、23万ドルほどの投資収益があれば引き続き50倍での取り引きも可能になっています。

オフショア市場として人気のバヌアツもこういった規制強化の中にあって、2019年3月にFX業者に対して新規制を導入しています。ただし規制の緩さ、設立費用の安さといった点でいまだにバヌアツの人気は衰えていません。2019年8月の1ヶ月だけに注目しても5社のFX業者が認可登録を行っています。

それだけハイレバレッジを求めるトレーダーが多いという実情を示しているのではないでしょうか。ASICの調査ではオーストラリア国内でCFDを利用する個人投資家は100万人にも達しており、その99%がオフショア市場を活用しています。つまり超ハイレバレッジの取り引きを行っているわけです。ASICの分析では2017年以降、オフショア市場のFXで63%のトレーダーが損失を被っていると発表しました。トレーダーの資産や経験が見合っていないという認識のようです。

ただし、「ハイレバレッジ=リスクが大きい」というのはあまりに単純過ぎる話です。ハイレバレッジだからこそ、実効レバレッジを下げて、余剰金に余裕を持つことで、為替相場の変動があっても、あっという間に強制ロスカットになることを防ぐことができます。レバレッジが引き下げられれば、それだけ必要証拠金も多く必要になり、含み損によるロスカットを防ぐためにさらに多くの資金を必要にすることになります。ハイレバレッジで余裕を持って取り引きをした方がリスクは少ないのです。口座を分けてリスクヘッジをしておけば、もしもの時に証拠金がマイナスになってもゼロカットシステムによって、マイナス分はFX業者が負担してくれますし、他の口座から補填されることもありませんので被害を最小限に抑えることができます。

今後も超ハイレバレッジを求めるFX業者やトレーダーと、規制とのイタチごっこは続くことでしょう。FX業者の取得ライセンスもよりマイナーなものになっていくかもしれません。そうなった場合、悪徳業者も登場してきますので、補償の面などしっかり確認し、安心できる大手のFX業者を利用し続けることも大切になっていきます。