損切りと強制ロスカットのダメージの違い

FX(外国為替証拠金取引)では「ロスカット」という言葉の使われ方が、やや曖昧です。「損切り」(ストップロス)と、「強制ロスカット」の両方の場面で使われることがあるためです。

しかし、損切りと強制ロスカットでは中身がまったく異なります。損失を出すという面では共通しているのですが、受けるダメージが違うのです。

まずは損切りの重要性を確認していきましょう。

ロングポジションを保有している場合、その通貨の為替レートが上昇していくと、含み益が発生しますし、逆に下落していくと含み損が発生します。

リスクリワード・レシオを2.0に設定して、50pipsの含み益となったら利益確定するのであれば、損切りは25pipsとなります。これを厳守していけば勝率が33%以上で、トータルの損益がプラスになるのです。

FXの取引では、熟練のトレーダーでも勝率40%程度といわれています。それでも大きな利益を出すことができるのは、リスクリワード・レシオを高く設定し、しかもそれを厳守しているからです。

つまり損切りは、「損失を最小限に抑え、トータルで利益を出す」ために必要な手段なのです。冷静な判断で損切りができれば、FXで勝つことができます。

一方で強制ロスカットは、損切りができないために許容範囲以上の含み損を抱えてしまった状態です。証拠金不足のために、取引業者によって強制的に決済を行われることになります。資金は当然のように元本割れとなります。

基本的には証拠金がマイナスになる状態、つまり借金を背負う状態にならないように強制ロスカットがかかるのですが、状況によってはこのシステムがうまく作動しない場合もあります。

2015年に起きたスイスフランショクがその一例でしょう。この時は突然の暴落によってインターバンクでの取引が停止し、売買が一時的に中断されました。そして復旧した際には、強制ロスカットを下回る値をつけていたのです。これにより資金をすべて失っただけでなく、借金を抱える投資家も出ました。

これはレアケースではありますが、突発的な事態に備えて、しっかりと計画的な損切り

注文を入れておく必要があるでしょう。それがとても大切な「リスクマネジメント」になります。

強制ロスカットの防ぎ方

損切りは、トータルで勝つための重要な選択であるのに対し、強制ロスカットは、資金の大半を失うために再起不能に陥る危険性があります。絶対に避けたいのが強制ロスカットなのです。

証拠金維持率が100%を割り込むと、多くの取引業者では「マージンコール」が発動します。このままでは強制ロスカットされますよという警告に過ぎない場合と、猶予期間までに「追証」しないと強制ロスカットしますよと催促する取引業者に分かれます。

証拠金維持率が50%を割り込むと、多くの取引業者では強制ロスカットされます。中には証拠金維持率が100%を割り込んだ時点で強制ロスカットが発動される取引業者もありますので、FX口座を開設する際はしっかりと確認が必要です。

マージンコールに関しては、「猶予期間内に追証して証拠金を増やす」か、「一部ポジションを決済してポジション量を減らす」ことで防ぐことができます。つまり強制ロスカットされずに、継続できる状態になるのです。

しかし、証拠金維持率が50%を割り込んだ時点で、強制ロスカットが発動されます。これは防ぎようがありません。50%を割り込んだ時点で負けなのです(40%や25%の取引業者もあります)。

突発的な暴落については、マージンコール発動より強制ロスカットが優先されます。この場合、追証しても間に合いません。

では、どうすれば強制ロスカットを防げるのでしょうか?

ひとつはそれ以前に損切りをしておくことですが、もうひとつ大事なことは「含み損の耐えられるだけの余剰金がある状態にしておく」ということです。資金はすべて投資してしまうということはギャンブル的要素が強くなりすぎ、リスクが高くなります。証拠金維持率を200%~300%で維持できる状態にして(レバレッジによって異なります)、ポジションを欲張らないことが重要になります。

証拠金維持率が厳しい状態になってきたら、潔く損切りするか、さらに証拠金を増やすために入金するか迅速な対応が求められます。感情的になって含み損を取り戻そうと、ナンピンをしてしまうと、一気に証拠金維持率が低下し、さらに深刻な事態を招く危険性がありますので注意してください。

証拠金が潤沢であれば、強制ロスカットされる心配はありませんし、耐えていれば、数週間から数ヶ月で為替レートが回復してくる可能性もあります。しかし、強制ロスカットされれば大きな損失を出しただけで終わってしまいます。

資金が少ない状態でFXを始めるのであれば、千通貨からで、低レバレッジにすべきだというのは、余剰金に余裕を待たせ、強制ロスカットされないようにするという意味合いもあるのです。

ゼロカットも強制ロスカット

海外の取引業者には「ゼロカット」を採用しているケースがあります。これは証拠金がマイナスになることを防いでくれる仕組みです。マイナス分は取引業者が負担してくれるようになっています。スイスフランショックのような不測の事態には有効でしょう。

証拠金がマイナスになった際の追証は、マージンコールが発動した際の追証とはまったく意味合いが違います。マージンコールの追証は、追証しないと強制ロスカットされるだけですが、証拠金がマイナスになった際の追証は、借金返済の催促になります。もちろんこの場合は、追証しなければ財産の差し押さえという最悪の事態になります。

その点では、証拠金がマイナスになることを防いでくれるゼロカットは心強いですが、資金をすべて失うという大きなダメージを受けることには変わりがありません。

自分がどこまでの損失を許容できるのかは事前にしっかりと把握しておくべきですし、トータルで勝つためには、どこで損切りするのかもしっかり決めておくべきでしょう。的確な損切りをできる人が、FXで勝つことができるのです。

1億円勝ったという人も、リスクマネジメントができていなければ結局は2億円負けます。それではトータルで勝ったことにはなりません。大切な資産を運用しているわけですから、しっかりと増やしていけるような手法で投資をしていくことが大切になります。