ナンピンというトレードの手法とは

ナンピンとは「難平」と書き、困難な状況を平らにするという意味になります。つまり「含み損を抱えた状況を打破する」トレードの手法です。

そんな手法が本当にあるのでしょうか?

FX(外国為替証拠金取引)の具体的な例でご紹介してみましょう。通貨ペアは米ドル/日本円(USD/JPY)です。

1米ドル112円80銭で、10Lotのロングポジションを保有したとします。ロングポジションですから、米ドル高になれば利益を出すことができますが、円高になれば損失となります。

ここでアメリカの経済指標がネガティブな結果で、リスクオフのために米ドルが売られ、日本円が買われる事態になりました。1米ドル111円80銭まで下落します。1万通貨で10Lot保有しているわけですから、1円下落して10万円の含み損です。

ナンピンはここでさらにロングポジションを買い足します。1米ドル111円80銭で10Lot分買い足すのです。合計で20Lotのロングポジションとなります。

これは「逆張り」とも呼ばれます。相場の70%~80%はレンジ内を上下する「レンジ相場」ですから、反発することを予想して、下落している最中でもロングポジションを買い足すわけです。

予想通りに反発して1米ドル112円40銭まで上昇しました。しかし、当初の10Lot分からだと為替レートは下落しています。40pips×10=400pipsの損失です。しかしナンピンして買い足した10Lot分からは為替レートは上昇しています。60pips×10=600pipsの利益です。400pipsの損失でも、600pipsの利益が出ているので、トータルでは600pips-400pips=200pipsの利益となります。

ナンピンとは、レンジ相場の性質を利用した逆張りであり、「損切り」することなく利益を出していくことができる夢のようなトレード手法なのです。

しかし、「ナンピンはやってはいけない」、「ナンピンしていると必ず負ける」という声も聞かれます。「ナンピンで成果を出せるのは、かなりの熟練者」とも言われています。なぜでしょうか?

ナンピンのリスク

なぜナンピンは禁じ手とされているのか、それは「リスクが高い」からになります。

確かに相場の80%がレンジ相場ですが、残りの20%の相場では強いトレンドが発生し、急騰や急落するという可能性があるのです。

例えば2016年6月、イギリスではEU離脱のついての国民投票が行われ、その結果、米ドル/日本円(USD/JPY)は午前6時には1米ドル106円台だったものが、午前11時30分には一時99円台を割り込むところまで急落しました。数時間で6円以上の円高が進んだのです。

仮に1米ドル105円50銭で10Lotのロングポジションを保有し、下落したところでナンピンし、さらに1米ドル103円50銭で10Lotのロングポジションを保有するとどうなるでしょうか?

1米ドル99円50銭まで急落した時点で、当初の10Lot分から600pips×10=6,000pips、さらにナンピンした10Lot分から400pips×10=4,000pips、それぞれ含み損を抱えることになります。トータルで10,000pipsの含み損ですから100万円の損失です。

おそらく証拠金維持率が不足し、強制ロスカットになってしまうでしょう。もっと多くのポジションを保有していたとしたら、さらに損失は膨らんでいます。

このように強いトレンドが発生している場合は、「ナンピンは損失を膨らませる」という結果に終わるのです。再起できない状態まで追い込まれる危険性すらあります。

ですから、リスクマネジメントのためにはナンピンは禁じ手であり、ある程度の含み損を抱えたら損切りすることが重要になるのです。

ただし、2016年の年末には1米ドル116円台まで回復していますので、含み損に耐えられ、そこまで塩漬けできるだけの余剰資金があれば話は少し変わってきます。

潤沢な余剰金がない状態でナンピンをするのは、自分の首を絞めるだけの結果になりますので注意が必要です。

一度ナンピンで上手く対処できると、その後はいくら含み損を抱えても損切りできない習慣がついてしまいます。すると10連勝しても、1度の負けが強制ロスカットまで突き進む大敗となってしまい、トータルで勝つということができなくなるのです。

自動売買のツールはナンピンを利用している

現在のFXでは「自動売買のツール」が人気を集めています。基本的にはIFD注文、またはIFD注文とOCC注文を組み合わせたIFO注文(IFDO、IFDOCOとも呼びます)です。

トレーダーはチャートに張り付いている必要がありません。自動売買のツールが24時間売買を繰り返してくれるのです。トラリピ、トラッキングトレード、トライオートFX、iサイクルといったツールがそれに該当します。

自動売買のツールは、多くがレンジ相場を想定し、逆張りで売買を行います。為替レートが上昇すればショートポジションを保有し、為替レートが下落すればロングポジションを保有します。そしてレンジ内で反発した際に決済して利益確定していくのです。これをひたすら繰り返していきます。

ここで知っておくべきなのは、あくまでもレンジ相場で有効なのであって、強いトレンドが発生した際にはナンピンを繰り返し、含み損を多く抱えてしまうという点です。つまり自動売買のツールに任せておけば、FXの知識や経済状況の情報など知らなくても必ず勝てるというわけではないのです。

自動売買のツールを利用する場合でも、必ず損切り(ストップロス)の注文は必要です。そのラインをどこにするかは、自分が抱えることのできるリスクの許容量を確認しながら決めていくべきでしょう。

米ドル/日本円(USD/JPY)などのメジャー通貨のペアであれば確かにレンジ相場での推移になりますが、それでもここ5年間の高値と安値では24円以上の開きがあります。新興国通貨が絡むと一方的なトレンドになることもあり、例えばトルコリラ/日本円(TRY/JPY)では、この5年間下落トレンドが続いています。高値の1トルコリラ53円台から16円台までほぼ一方的に下落しました。この状況ではいくらナンピンしても火に油を注ぐことになってしまいます。

「損切りできる」ということは、FXで勝つためには必須条件になります。安易にナンピンで乗り切ろうとせず、しっかりとリスクマネジメントを行って損切りしなければならない時は、割り切って損切りできるようになることが大切です。