アメリカがNAFTA離脱を表明する可能性が浮上


10日、ロイター通信がカナダ政府当局者の見方として、トランプ米大統領がNAFTA(北米自由貿易協定)からの離脱を表明する可能性があると報じました。

アメリカ・カナダ・メキシコの当局者は今月23日から28日まで6回目となるNAFTA再交渉の協議を開く予定となっていますが、

カナダ政府当局者が23日の再交渉協議開始に合わせてトランプ大統領がNAFTA離脱を表明する確信を強めているとの報道されたことを受けて、10日カナダ・ドルとメキシコ・ペソが急落、ドルは主要10通貨のうちカナダ・ドルとポンドを除く全てに対して値下がりしました。

しかし一方でトランプ大統領がこれまでも再交渉が不調に終われば離脱すると表明していたことから、今回も再交渉を有利に進めるための戦術との見方もある様です。
また別のカナダ政府当局者は、もしトランプ大統領がNAFTA離脱表明をしたとしても米議会が承認しないだろうとの見解を示しています。

アメリカ・カナダ・メキシコの3国は3月末までの交渉妥結を目指していますが、アメリカに有利な提案を突き付けられたカナダとメキシコが反発しているため、交渉は難航すると見られています。

NAFTA再交渉の最大の論点は「原産地規制の厳格化」

アメリカがカナダとメキシコに突き付けた提案のうち最大の論点となっているのが「原産地規制の厳格化」です。

現行の協定では、域内での部品調達率が62.5%を超えると域内で販売される自動車の関税がゼロになると定められていますが、トランプ大統領は特にメキシコに対して雇用を奪われたとする恨みを持っており、これまでもNAFTAに関して「不公平な貿易」で、メキシコはアメリカの雇用を阻害していると批判してきました。

そのためトランプ大統領は北米で生産される自動車に関して域内からの調達率を85%に引き上げると共に、米国産部品の調達率50%に引き上げることで、メキシコから工場や雇用を取り戻したい考えを示しています。

原産地規制の厳格化が実現するとどうなるか

トランプ大統領の要求が受け入れられ、原産地規制の厳格化が実現するとどうなるか考えてみました。

メキシコに進出した日系企業に影響を及ぼす

メキシコは人件費が安いことやアメリカやカナダへの輸出に関税がかからないことからトヨタや日産、ホンダなど多くの日系自動車メーカーや部品メーカーがメキシコへ進出しています。原産地規制の厳格化が実現されれば生産拠点や経営戦略の見直しをしなければなりません。そのためメキシコに進出した日系企業にとって大きな影響を受けることになります。

グローバル企業はサプライチェーンの再構築を迫られる

現地に進出する自動車メーカーは事業の見直しを迫られることになります。こうなると、原産地規制の厳格化はアメリカ・カナダ・メキシコだけの問題ではないため協議を進める際はかなり慎重になる必要があります。

NAFTA離脱はアメリカにとって損か得か

アメリカの輸出相手国1位はカナダ、2位はメキシコであるほか輸入相手国は中国に次いで2位がカナダ、3位がメキシコとなっていることから
両国はアメリカの主要貿易相手国であることが分かります。

もし再交渉が上手くいかずアメリカがNAFTA離脱を決断した場合、アメリカは損をするのでしょうか、それとも得をするのでしょうか。

NAFTAから離脱した場合、アメリカがカナダとメキシコから輸入する際にはWTO の最恵国待遇 (MFN) 税率が課されることになります。

MFN税率の全品目平均はアメリカが3.5%、メキシコが7.0%となっており、メキシコがアメリカに輸出する時よりもアメリカがメキシコに輸出する時の方がコストが多くかかることになります。(各輸出品目におけるメキシコのMFN税率は下記にまとめています。)

つまりNAFTAの恩恵を受けていたのはアメリカであり、離脱はアメリカにとって得ではないと考えられます。

米国の対メキシコ主要輸出品目と関税率(2016)
輸出額(100万ドル)品目名メキシコのMFN税率(%)
1,036豚肉20.0
793鶏肉64.1
574砂糖43.8
538牛肉(冷蔵)20.0
363チーズ32.9
3,619乗用車30.2
859商用車(トラック、バス)20.6


・メキシコの税率はタリフラインごとの関税の単純平均
・WTO・国際貿易委員会のデータから一部抜粋して作成

今回のまとめ

ookami

原産地規制の厳格化は実現されるのか、アメリカはNAFTAからの離脱を表明するのか。23日から始まるNAFTA再交渉の第6回協議に注目です。